プロンプトは、AIに渡す指示文です。「何を作りたいか」「どの資料を使うか」「誰が読むか」「どんな形で」「何を守るか」を伝えるだけで、返ってくる答えは見違えるほど的確になり、答えを確かめる基準もはっきりします。この章では、直す前と後の例で違いを見たあと、会議メモの要約を使って、指示を書くところから回答を確かめるところまで練習します。
会議の要点、メールの下書き、比較表など。
決まっている事実と、まだ分からないこと。
資料と合っているか、抜けや条件違反がないか。
指示で変えられること・変えられないこと
「会議を要約して」だけでは、誰が読むのか、決定事項を知りたいのか、発言を詳しく残したいのかが分かりません。「欠席者向けに、決定事項・未決事項・次の確認を分けて」と書けば、求める成果物を伝えられます。
OpenAIとAnthropicの公式資料も、明確な指示、関連する資料、出力形式、例示を使う方法を説明しています。ただし、指示を詳しくしても答えが必ず正しくなるわけではなく、同じ指示でも毎回少しずつ違う答えが返ります。[1][3]
- 誰に向けて、何を作るか
- 参照する資料と回答の形
- 守る条件と、確かめる項目
- 資料にない事実や最新情報の正しさ
- 専門資格や実務経験
- 使える機能・権限・利用上限
たとえば「経験豊富な弁護士として答えて」と書いても、AIが資格を持つわけではありません。また、使えない検索機能や、許可されていないファイルへのアクセスが、指示で使えるようになるわけでもありません。利用先の選び方はAIツールの選び方で確認してください。
指示を組み立てる5つの要素
次の5つは、指示を書くときの整理の仕方です。毎回すべてを埋める必要はありません。まずは目的と資料から書き、必要な条件を足します。
要約、下書き、比較など、完成するものを決めます。
例:欠席者向けに会議の要点をまとめる。
使える事実と、まだ決まっていない点を分けます。参考資料は指示文と区切ります。
例:予算はまだ承認されていない。メモにない情報は補わない。
読み手の知識や、見てほしい観点を伝えます。役割の指定もここに含みます。
例:参加していない同僚にも分かる表現にする。
見出し、箇条書き、表など、利用する場面に合う形を選びます。
例:決定事項・未決事項・次の確認の3見出し。
必須事項、避けること、条件がぶつかったときの優先順位を伝えます。
例:決まっていない納期を約束せず、確認事項として残す。
背景をすべて渡すより、今回の作業に必要な資料を選びましょう。実際の機密情報を入力してよいかは、指示の書き方とは別の判断です。仕事の資料を使う前に、入力情報とプライバシーの確認も読んでおいてください。
使い分けたい7つの方法
長い指示文を作ること自体が目的ではありません。困っている点に合う方法を選び、回答を確かめます。
1 完成した状態を具体的にする
「良い案を出して」ではなく、何に使う案なのか、採用するときに何を見るのかを伝えます。
読書会について、初参加の人向けの案内文を作ってください。開催日は未定です。日時を作らず、参加方法と公開前の確認事項を分けてください。
ここで指定したのは、作るものと守る条件です。
2 資料と指示を区切る
見出しや区切り線で「依頼」「資料」「回答形式」を分けます。OpenAIはMarkdownやXML、AnthropicはXMLなどを使った区切り方を説明しています。初心者は、【】の見出しから始めれば十分です。[1][3]
【依頼】以下の資料だけを使って要点をまとめる。
【資料】ここに、入力してよいことを確かめた資料を置く。
【回答形式】決定事項と未決事項を分ける。
なお、区切っても、資料の中に紛れ込んだ指示にAIが従ってしまうことはあります。出どころの分からない文章を貼るときは注意してください。
3 読み手と視点を指定する
「初心者向けに」「編集者の視点で抜けを指摘して」など、説明の難しさや見る観点を伝えます。Anthropicは役割の指定を、振る舞いや文体を方向づける方法として説明しています。[3]
初めて会議に参加する人に説明するつもりで、専門用語を短く説明してください。判断に必要な条件は省略しないでください。
役割を指定しても専門知識が増えるわけではないので、専門的な結論は元の資料や担当者で確かめます。
4 必要なら、正しい入出力例を見せる
形式や分類の基準を言葉だけで伝えにくい場合は、入力と期待する出力の例を添えます。複数の例を示す方法は、Few-shot(フューショット)と呼ばれます。例は実際の用途に合い、指示と矛盾しないものを選びます。[1][2][3]
| 入力の例 | 示す分類 | 理由 |
|---|---|---|
| 会場はA室に決定した。 | 決定事項 | 決定したと明記されている。 |
| 会場はA室を候補として検討する。 | 未決事項 | 候補であり、決定ではない。 |
| 会場は決定したが、開始時刻は未定。 | 項目を分けて分類 | 会場は決定、開始時刻は未決。 |
間違った分類を例として渡さないように注意してください。例の数に決まりはないので、まず例なしで試し、伝わらない基準だけ例で補う方法もあります。
5 複雑な作業は、確認できる単位に分ける
たとえば「資料から条件を抜き出す→条件を確認する→下書きを作る」と分けると、誤りがどこに入ったかを確かめられます。途中の判断が重要なら、人が確認してから次へ進めます。
最初に、この資料から決定事項と未決事項を抜き出してください。まだ案内文は書かないでください。抜き出した結果を私が確認した後に、案内文を作成します。
最近のAIの多くは、答える前に内部で考える仕組みを持っているため、OpenAIの資料では「順を追って考えて」と頼む必要はないとしています。[2] その代わり、確かめやすくするために「使った資料の箇所」「計算式と単位」「前提にしたこと」を出してもらうのは有効です。
6 確認項目を指定して、見直しを頼む
「間違いはない?」だけでなく、何と見比べるかを指定します。
下書きを元のメモと見比べてください。未定の日時が確定扱いになっていないか、まだ承認されていない予算が承認済みになっていないかを確認し、該当する文と元のメモの箇所を示してください。
AIが「問題なし」と答えても、重要な数値・日付・約束は人が元の資料で確かめます。
7 指示文づくりをAIに手伝ってもらう
作りたいものを伝え、足りない条件を質問してもらう方法です。提案された指示文に、知らない事実や余計な条件が加わっていないか読み直します。
イベント案内を作るための指示文を一緒に考えてください。目的、読み手、決まっている事実、未定の点、出力形式を整理したいです。足りない情報は質問し、日付や金額は推測で埋めないでください。
自分で答えられない質問は、未定のまま残して構いません。
Before / After ― 同じ依頼でもこんなに変わる
テクニックの説明だけでは実感しにくいので、直す前と後の依頼文を見比べてみましょう。左が漠然とした依頼、右が条件を加えた依頼です(名前や数字は例です)。
例1:お詫びメールの作成
| Before | After |
|---|---|
| 「お詫びのメールを書いて」 → 誰に何を謝るのか分からず、どこにでも使える当たり障りのない文面になる |
「納品が3日遅れたことについて、取引先の田中部長宛にお詫びメールを書いて。原因は物流の遅れで、来週月曜に届く予定。書いていない約束や補償は入れないで」 → 状況に合ったお詫びの下書きが出る。送る前に日付と約束だけ見比べる |
例2:企画のアイデア出し
| Before | After |
|---|---|
| 「新商品のアイデアを出して」 → どの業界のどんな商品か不明で、漠然とした提案になる |
「20〜30代女性向けの健康食品で、月額3,000円以下のサブスク商品を5つ提案して。それぞれ、誰のどんな困りごとに応えるかを一言添えて」 → 企画会議のたたき台になる、狙いのはっきりした案が出る |
例3:学習・調べもの
| Before | After |
|---|---|
| 「機械学習を教えて」 → 専門用語の多い、堅い説明が返ってきやすい |
「中学生でもわかるように、機械学習の仕組みを料理のレシピに例えて説明して。専門用語は使わず、具体例を2つ入れて」 → 身近なたとえで、すぐに読める説明が返ってくる |
共通するポイントは「誰に・何を・どうやって・どんな形で」をはっきりさせていることです。次は、この考え方を使って、会議メモの要約を練習してみましょう。
練習:会議メモを欠席者向けにまとめる
- 読書会の会場はA室に決定。
- 開始時刻は未定。担当者が来週の会議で候補を示す。
- 資料印刷費は提案段階で、金額も承認も決まっていない。
- 欠席者にも、決定したことと未決のことを知らせたい。
会議を短くまとめて。
何を残すか、どの資料を使うか、未定の点をどう扱うかが伝わりません。
下の元メモだけを使い、欠席者向けに会議の要点をまとめてください。決定事項・未決事項・次の確認の3見出しで箇条書きにしてください。日時や金額を作らず、メモにないことは「未定」としてください。
【元メモ】
(上の練習用メモをここに貼ります)
答えを元のメモと見比べるための条件まで伝えています。
完成例
- 読書会の会場はA室。
- 開始時刻、資料印刷費の金額と承認。
- 担当者が来週の会議で開始時刻の候補を示す。
- 資料印刷費:金額と承認の時期を担当者に確認する。
試すときは、新しいチャットに指示文と元メモを入れます。回答がこの完成例と同じ言葉でなくても構いません。次の3点で中身を確かめてください。
- 決定と未決を分けているか。A室は決定、開始時刻と印刷費は未決。
- 日時や金額を作っていないか。来週の会議の具体的な日付も、このメモだけでは分かりません。
- 予定を約束に変えていないか。時刻の候補を示す予定は、開催日時の確定ではありません。
メールにする場合も、下書きができたことと送ってよいことは別です。メール・チャットの下書きでは、相手に約束する内容の確かめ方も学べます。
つまずいたときの直し方
| 困った状態 | 次に伝えること・確かめること |
|---|---|
| 「良い感じ」の基準が伝わらない | 読み手、用途、残す項目を具体的にする。「決定事項と未決事項を分ける」など。 |
| 文字数と必須項目が両立しない | 優先順位を決める。全部必要なら分量を見直す。AIが省略した内容も確かめる。 |
| 関連のない依頼が混ざっている | 目的ごとに分ける。関連する作業はまとめてもよいが、途中の判断を確かめられる形にする。 |
| 出典が書いてあるので信じてしまう | リンク先の原文を開き、実際にその主張が書かれているか確かめる。URLがあるだけでは証明にならない。 |
| 資料にない事実が追加される | 使う資料を限定し、分からないことは「未定」と書くよう伝える。直した後も資料と見比べる。 |
| 会話を重ねるほど指示が食い違う | 現在の目的・採用した条件・未決の点をまとめ直す。不要な過去の条件を引き継がない。 |
長い会話や大量の資料には、利用先やモデルに応じた入力・会話の上限もあります。「全部覚えて」と書けば上限がなくなるわけではありません。参考資料、過去のやり取り、ツールの結果など、渡す情報全体を整える考え方はコンテキストエンジニアリングで説明しています。
回答を確認して、必要なところだけ直す
回数を増やすことよりも、何が違ったかを具体的に伝えることが大切です。1回で使える答えになることもあれば、何度か直すこともあります。
目的・資料・条件を渡す。
元の資料と完成の条件を人が確かめる。
違った箇所と、必要な変更を伝える。
直した後も確かめ、使えるか決める。
そのまま使える修正依頼
開始時刻は未定なのに、回答では午後2時になっています。この時刻を削除し、未決事項に戻してください。会場がA室に決定した点は残してください。直した後に、元メモにない日時・金額・承認がほかにも加わっていないか確認してください。
直しても資料と合わない状態が続くときは、資料を短く区切る、作業を分ける、といった切り替えも試してみてください。
- 何を作り、どの資料を使うかが分かる。
- 分からない点を、AIに推測で埋めさせていない。
- 必須条件と優先順位が矛盾していない。
- 日付・数字・約束を元の資料と見比べた。
- 外部へ渡す情報と、成果物を使ってよいかを確かめた。
公式資料と次に読む章
以下は各社の公式資料です。開発者(API)向けの説明も含みます。
- OpenAI:プロンプト設計 ― 指示の構造化、例示、関連資料、モデルによる違い。
- OpenAI:推論モデルへの指示 ― 簡潔な指示、明確な目標、例と指示の整合。
- Anthropic:Claudeへの指示の書き方 ― 明確さ、資料の区切り、役割、例示、モデルごとの思考に関する助言。
用途別の指示文はプロンプトの実践ガイドへ。次の章では、仕事・学習・創作での活用場面を学びます。