NPU(Neural Processing Unit)は、AI の計算を少ない電力でこなすための、パソコンの中の専用の部品です。最近のノートパソコンの多くに入っていますが、ChatGPT・Claude・Gemini のような AI は計算をサーバーで行うので、NPU があってもなくても速さは変わりません。NPU が役に立つのは、Windows の Copilot+ PC の機能や、ビデオ会議の背景ぼかしのように、パソコンの中で AI を動かす機能を使うときです。
やりたいことごとに、効く部品が違う
NPU 付きのパソコンを選ぶ理由になるのは、2つ目の「Windows の AI 機能」を使いたいときです。
この記事では、Microsoft・Intel・AMD・Qualcomm・Apple などの公式の資料(2026年10月25日確認)をもとに、NPU とは何か、どんな機能が NPU を使うのか、性能の数字(TOPS)の読み方、パソコンを選ぶときの判断の仕方を説明します。Mac の場合は6章で説明します。部品は NPU GPU クラウド の色で区別しています。
1. NPU とは——CPU・GPU との違い
パソコンで AI の計算ができる部品は3つあります。AI の計算は、大量の掛け算と足し算を同時に行うのが中心です。どの部品でも計算はできますが、得意なことと電力の使い方が違います。
CPU中央処理装置
- 得意なこと
- 何でもこなす。順番に決まった手順を進める処理
- AI では
- 動くが遅い。ほかの2つが無いときの受け皿
GPU画像処理装置
- 得意なこと
- 同じ計算を大量に並べて一度に行う(もとは画面の描画)
- AI では
- ローカル LLM や画像生成のような重い AI では、多くの場合いちばん速い。専用の GPU は電力も大きい。動かせるモデルの大きさは、専用の GPU なら GPU のメモリ(VRAM)、内蔵 GPU や Mac ならパソコンのメモリの量でおおむね決まる
NPUニューラル処理装置
- 得意なこと
- AI の計算だけを、少ない電力で続ける
- AI では
- 背景ぼかし・文字起こし・画像の補正など、常に動かしておきたい小さめの AI に向く。電池で使うノートパソコンでは電池の減りを抑えやすい
NPU はメーカーによって呼び名が違います(Intel・AMD・Qualcomm は NPU、Apple は Neural Engine)。最近のパソコン向けのチップでは、CPU・GPU・NPU が1つのチップにまとめて入っています。
大事なのは、NPU は「アプリが使うように作られているときだけ」働くことです。Microsoft の開発者向けの資料も、NPU を使うにはアプリ側が対応する必要があるとしています。NPU が付いていても、対応していないアプリは CPU や GPU で動きます。Windows 11 では、タスク マネージャーの「パフォーマンス」に NPU の使用率が出るので、AI の機能を使っている間に NPU が動いているかを確かめられます(Microsoft「Copilot+ PCs developer guide」)。
2. ChatGPT・Claude・Gemini は NPU を使う?
ChatGPT・Claude・Gemini のアプリや Web 版は、質問をインターネットの向こうのサーバーへ送り、サーバーの大きなモデルが答えを作ります。パソコンの NPU や GPU は答えを作る計算に使われないので、動作条件にも入っていません。たとえば ChatGPT の Windows アプリの動作条件は Windows の版だけです(OpenAI ヘルプ)。Microsoft 365 Copilot も、言語モデルへの問い合わせを Microsoft のデータセンターへ送る仕組みです(Microsoft Learn)。
そのため、ChatGPT や Claude の返事が遅いと感じても、NPU 付きのパソコンに替えて速くなることはありません。Claude Code や Codex でも同じで、パソコンの性能で変わるのはビルドやテストのような手元のコマンドの時間です。詳しくは「Claude Code・Codex に必要な PC スペック」で説明しています。
3. NPU を使う Windows の機能(Copilot+ PC など)
NPU がいちばんはっきり効くのは、Windows 11 の Copilot+ PC の機能です。Copilot+ PC は、Microsoft が決めた条件を満たすパソコンの呼び名で、条件は次のとおりです(Microsoft「Windows 11 の仕様とシステム要件」)。
| 項目 | Copilot+ PC の最小の条件 |
|---|---|
| プロセッサ | 40 TOPS 以上の NPU を備えたもの現時点の対象:AMD Ryzen AI 300・400 シリーズ/Intel Core Ultra 200V・300V シリーズ/Snapdragon X シリーズ |
| メモリ(RAM) | 16GB(DDR5/LPDDR5) |
| ストレージ | 256GB(SSD/UFS) |
TOPS は1秒間にできる演算の回数(兆回)。読み方は5章。Microsoft は、NPU が 40 TOPS 以上でもメモリが 16GB 未満の PC などは Copilot+ PC ではない、としています。この場合でも、NPU に対応したアプリは NPU を使えます。
Copilot+ PC でだけ使える主な機能を、Microsoft の一覧から並べます。「ネットが要る」は、安全性の確認のために Microsoft のクラウドへの接続とアカウントが要る機能です。
| 機能 | 内容 | 補足・制限 |
|---|---|---|
| リコール(プレビュー) | 過去に画面に出たものを言葉で探す | Windows Hello の強化されたサインインが要る |
| 改善された Windows 検索 | ファイルや設定を、名前でなく内容の言葉で探す | 日本語を含む6言語に最適化 |
| クリックで実行(Click to Do) | 画面に出ている文字や画像を選んで、その場で操作する | 使える操作は機種・地域・言語で違う |
| ライブ キャプション | 動画や音声に字幕を付けて翻訳する | 40以上の言語から英語へ、27言語から簡体字中国語へ(日本語の音声も英語・中国語に訳せるが、日本語への翻訳は無い) |
| [設定] のエージェント | やりたいことを言葉で入力すると、設定を探して変える | 日本語を含む10言語 |
| フォトのスーパー解像度・ペイントのオブジェクト選択・Snipping Tool のパーフェクト スクリーンショット | 画像の高解像度化・切り抜き | — |
| ペイントのコクリエーター・フォトのイメージ クリエーターなど | 文字から画像を作る・作り変える | ネットが要る・英語の指示に最適化 |
| フォトのリライト・ペイントの Generative Fill・自動スーパー解像度(ゲーム) | 照明の変更・塗りつぶし・ゲームの高解像度化 | Snapdragon X 搭載の Copilot+ PC だけ |
出典:Microsoft「Windows 11 の仕様とシステム要件」の「Copilot+ PC の全機能のリスト」(2026年10月25日確認)。提供の状況は地域・機種によって変わります。
Windows スタジオ エフェクトは 10 TOPS から
カメラの映像に効果をかける Windows スタジオ エフェクト(背景ぼかし・アイ コンタクト・自動フレーミング・音声フォーカス)は、Copilot+ PC でなくても、10 TOPS 以上の NPU とカメラがあれば使えます。ポートレート ライトなどの追加の効果は、Snapdragon X 搭載の Copilot+ PC だけです(同じ Microsoft の仕様のページ)。この効果の処理は NPU が受け持ちます。
Windows に入っている小さな AI のモデル
Copilot+ PC には、Microsoft の小型の言語モデル Phi Silica が最初から入っていて、NPU で動きます。Windows の機能やアプリが、文章の要約や書き直しを、ネットにつながずにパソコンの中で行うためのモデルです。Microsoft の資料は、NPU で動かすと GPU より応答が速く電力も少ないと比べています。Microsoft は、Phi Silica を後継のモデル「Aion Instruct」に置き換える予定で、一般のパソコンでは2027年1月の予定です(Microsoft Learn「Get started with Phi Silica」)。
4. ローカル LLM は NPU で動く?
AI のモデルを自分のパソコンにダウンロードして動かす「ローカル LLM」では、今も GPU が主役です。広く使われているツールの多くが GPU で動かす作りで、NPU を使えるのは一部のツールに限られるためです。公式の対応状況は次のとおりです(2026年10月25日確認)。
| ツール | 公式の資料での NPU 対応 | 主に使う部品 |
|---|---|---|
| Ollamaアプリ | 記載なし公式の対応ハードの資料は GPU(NVIDIA・AMD・Apple・Vulkan)だけ | GPU |
| LM Studioアプリ | 記載なし公式の動作条件は CPU・メモリ・GPU の VRAM だけ | GPU |
| Foundry LocalMicrosoft・開発者向け | 対応Windows で AMD と Qualcomm の NPU に対応(Intel は GPU)/部品は自動で選び、無ければ CPU | NPU/GPU機種に合わせて自動 |
| Ryzen AI SoftwareAMD・開発者向け | 対応Ryzen AI 300 以降で、NPU だけ、または NPU と内蔵 GPU の併用 | NPU+GPU |
| OpenVINOIntel・開発者向け | 対応CPU・GPU・NPU から選べる(NPU では入力の長さに既定の上限) | NPU/GPU選べる |
| llama.cpp開発者向け | 試験的Snapdragon で CPU・GPU・NPU(Hexagon)の3つに対応し、NPU は試験的 | GPU |
出典:Ollama「Hardware support」、LM Studio「System Requirements」、llama.cpp「Snapdragon」、Microsoft Learn「Foundry Local architecture」、AMD「Ryzen AI Software:LLMs」、OpenVINO「Inference with GenAI on NPU」。
なお、パソコンの中で動く AI でも、NPU を条件にしないものがあります。ブラウザの Chrome には、パソコンの中で動く小型の Gemini(Gemini Nano)が組み込まれています。ただし Google が示す条件は「VRAM が 4GB を超える GPU」または「メモリ 16GB 以上・4コア以上の CPU」で、NPU は条件に入っていません(Chrome for Developers)。
AMD は、NPU と内蔵 GPU を併用するとき、入力を読み込む前半を NPU が、文字を作る後半を GPU が受け持つと説明しています。NPU は計算の量が多い作業に向き、メモリを読み続ける作業は GPU のほうが向く、という分担です。
ローカル LLM を動かしたい人が見るべきなのは、NPU の TOPS ではなく、GPU のメモリ(VRAM)と、パソコンのメモリの量です。目安は「ローカル LLM に必要なスペック」に、始め方は「ローカル LLM の動かし方」にまとめています。
5. 性能の数字「TOPS」の読み方
NPU の性能は TOPS(Tera Operations Per Second)で表されます。1秒間に何兆回の演算ができるかの数字で、「50 TOPS」なら毎秒50兆回です。各社の主なチップの NPU の値を、メーカーの公表値(型番の中の最大値)で並べます。赤い点線が Copilot+ PC の条件の 40 TOPS です。測り方(精度)がメーカーで揃っていないので、大きさの目安として見てください(下の注意2)。
┊ 赤い点線:Copilot+ PC の条件(40 TOPS)
出典:Qualcomm(製品資料の「Hexagon NPU TOPS (INT8)」の行)、AMD(CES 2026 の発表)、Intel(CES 2026 の発表)。
- どれも型番の中の最大値で、下位の型番は小さくなります(Snapdragon X2 Elite は80、Ryzen AI 400 は型番により50〜60)。
- Copilot+ PC の対象かどうかは、Microsoft の一覧の名前(Intel は「200V・300V シリーズ」と書かれ、Intel 自身の「シリーズ3」とは呼び方が違う)と、パソコンの仕様表の「Copilot+ PC」の表記で確かめるのが確実です。Snapdragon X2 Elite は、Qualcomm の資料で Copilot+ PC 向けとされています。
- Copilot+ PC の対象に挙がっている前の世代(Ryzen AI 300・Core Ultra 200V・Snapdragon X)も、条件どおり NPU は 40 TOPS 以上です。Mac の M4 は 38 TOPS です(6章)。
TOPS を比べるときの3つの注意
- NPU だけの数字か、チップ全体の数字か。Intel や AMD は、CPU・GPU・NPU を足した「プラットフォーム全体の TOPS」も公表しています。たとえば Intel のデスクトップ向けの Core Ultra 200S は、NPU が最大13、全体が最大36 です(Intel「Core Ultra 200S Product Brief」)。広告の大きな数字が全体の値のことがあるので、Copilot+ PC の条件と比べるときは NPU の値を見ます。
- 計算の細かさ(精度)が揃っていない。Qualcomm は NPU の値を INT8(8ビットの整数)で測ったと明記していますが、AMD と Intel の発表には精度の記載がありません。NVIDIA の GPU の「AI TOPS」は、もっと粗い FP4 で、さらにゼロを飛ばして計算する機能(スパース性)を使ったときの値です。NVIDIA の資料では、デスクトップ向けの RTX 5090 は「1676/3352」と2つの値が並び、大きいほうがこの機能を使ったときの値です(NVIDIA RTX Blackwell の技術資料)。ノート向けの RTX 50 シリーズの AI TOPS は 440〜1,824 ですが(NVIDIA)、NPU の数字と並べて「何倍」とは言えません。
- TOPS は理論上の最大値。Intel の同じ資料は、TOPS を「効率100%で動いたときの理論上の最大」と説明しています。実際の速さは、アプリが NPU に対応しているか、メモリの速さ、電力の設定で変わります。
6. Mac の Neural Engine
Mac の Apple シリコン(M1 以降)には、NPU にあたる Neural Engine が入っています。Apple は M4 の Neural Engine を毎秒38兆回の演算と公表しましたが、M5 以降は TOPS の値を出していません。M5 では、AI の計算を速くする仕組みを GPU の各コアにも入れ、AI の性能の伸びを主に GPU で説明しています(Apple「M5」の発表)。
Mac で AI の機能を使う目安は、TOPS ではなく対応機種です。Apple Intelligence は M1 以降の Mac で使え、日本語にも対応しています(Apple サポート「Apple Intelligence の入手方法」)。M1 以降の Mac なら、Windows の Copilot+ PC のような NPU の性能の線引きを気にする必要はありません。
Mac でローカル LLM を動かすときも、主に使われるのは Neural Engine ではなく GPU です。Ollama の資料が挙げる Mac の対応は Apple の GPU(Metal)で、Microsoft の Foundry Local も Mac では GPU を使います(Microsoft Learn)。Mac の GPU はパソコンのメモリ(ユニファイドメモリ)を使うので、動かせるモデルの大きさはメモリの量で決まります。
7. NPU 付きのパソコンを選ぶべきか——判断の手順
Intel・AMD・Qualcomm が2026年に出したノートパソコン向けの主力のチップは、NPU を積んでいます。迷うのは「Copilot+ PC の条件を満たすものにするか」と「NPU と GPU のどちらにお金をかけるか」です。次の順に考えると決めやすくなります。
- パソコンの中で動く AI を使う予定はある?
いいえ(チャットや Claude Code などのクラウドだけ)NPU は判断の材料にならず、メモリの量・SSD・画面・重さで選んでよいはい次へ
- Mac にする?
はいM1 以降なら Apple Intelligence が使え、TOPS の線引きは無い(ローカル LLM も動かすならユニファイドメモリの量を優先:6章)いいえ(Windows)次へ
- Windows の AI 機能を使いたい?
リコールやライブ キャプションの翻訳も使いたい「Copilot+ PC」と書かれた機種を選ぶ(NPU 40 TOPS 以上・メモリ 16GB・SSD 256GB)→ 次へ背景ぼかしなどのスタジオ エフェクトだけ10 TOPS 以上の NPU で足りる → 次へ使わないNPU は判断の材料にならない → 次へ
- AI のモデルを自分のパソコンで動かしたい?
はいNPU より GPU の VRAM とメモリの量を優先する(4章)いいえAI のために GPU にお金をかける必要はない
買う前は、パソコンのメーカーの仕様表で「Copilot+ PC」の表記とチップの型番を見て、チップのメーカーの製品ページで NPU の TOPS を確かめます。手元のパソコンや店頭の展示機なら、Windows 11 のタスク マネージャーの「パフォーマンス」に NPU の項目があるかで、NPU の有無が分かります。スタジオ エフェクトが使えるかは、[設定] の [Bluetooth とデバイス] → [カメラ] でカメラを選び、スタジオ エフェクトの項目が出るかで分かります(出なければ NPU が無い可能性がある、と Microsoft のサポートは説明しています)。
まとめ
- NPU は、AI の計算を少ない電力で続けるための、パソコンの中の専用の部品
- ChatGPT・Claude・Gemini などは計算をサーバーで行うので、NPU があってもなくても速さは変わらない
- NPU が効くのは、Windows の Copilot+ PC の機能(条件は NPU 40 TOPS 以上・メモリ 16GB・SSD 256GB)と、スタジオ エフェクト(10 TOPS 以上)など、パソコンの中で動く AI
- ローカル LLM は今も GPU とメモリが主役で、NPU を使えるのは Foundry Local や各メーカーのツールなど一部
- TOPS は「NPU だけか全体か」「精度」が揃っておらず、メーカーをまたいで単純に比べられない
- Mac は TOPS でなく対応機種で判断し(Apple Intelligence は M1 以降)、ローカル LLM はメモリの量が鍵
FAQ
Q. NPU がないパソコンでは AI が使えませんか?
使えます。ChatGPT・Claude・Gemini などはサーバーで動くので、NPU のないパソコンでも同じように使えます。NPU がないと使えないのは、Windows の Copilot+ PC の機能のような、パソコンの中で動かす前提の一部の機能です。
Q. NPU の TOPS は高いほどよいですか?
同じメーカーの同じ数え方の中では目安になります。ただし、使うアプリが NPU に対応していなければ数字は効きません。Copilot+ PC の機能を使うなら、TOPS の数字より「Copilot+ PC」と表示された機種かどうかを見れば足ります(NPU 40 TOPS 以上・メモリ 16GB・SSD 256GB をすべて満たすもの)。
Q. ゲーム用の GPU を積んだパソコンと、NPU 付きのパソコンはどちらが AI に強いですか?
ローカル LLM や画像生成のように重い AI を手元で動かすなら、VRAM の多い GPU のほうが強いです。NPU は、背景ぼかしや文字起こしのような軽い AI を、電池の減りを抑えながら動かし続ける用途に向きます。
Q. Mac にも NPU はありますか?
あります。Apple シリコン(M1 以降)の Neural Engine が NPU にあたります。Mac では TOPS より対応機種で考えるのが簡単で、Apple Intelligence は M1 以降の Mac で使えます。
Q. Copilot+ PC でなくても Copilot は使えますか?
使えます。Copilot のアプリや Microsoft 365 Copilot はクラウドで動くので、Copilot+ PC でなくても使えます。Copilot+ PC が要るのは、リコールや改善された Windows 検索など、パソコンの中で AI を動かす機能です。