目次
大規模言語モデル(LLM)はクラウド上で動かすのが当たり前——そう思っていないだろうか。実は今、自分のPCの中だけでAIを動かす「ローカルLLM」が現実的な選択肢になっている。データを外に出さず、API料金もかからず、ネットがなくても使える。小さなモデルならファイルは数GBで、普通のノートPCでも動く。
本記事では、ローカルLLMとは何か・メリットと弱点・必要なスペック・始め方(Ollama の公式手順でのインストールから動作確認まで)・モデルの選び方・クラウドとの使い分けまでを初心者向けに整理する。
クラウドに送らない、課金されない
— データはPCの中だけ、一度入れれば使い放題
プライバシー
入力が外部サーバーに送られない。機密情報も安心。
コストゼロ
API料金なし。一度入れれば何回使っても無料。
オフライン
ネットがなくても動く。機内でも出先でもOK。
1. ローカルLLMとは
ローカルLLMとは、ChatGPTやClaudeのようなAIモデルを、クラウドではなく自分のPC(やスマホ)の中で直接動かすこと。普段使うAIは、入力を遠くのサーバーに送って処理し、答えを返してもらう仕組みだが、ローカルLLMはその処理を全部手元の機械でやる。
逆に、Claude Code や Codex のようにモデルをサーバーで動かすツールでは、PC の性能で変わるのは手元で動くコマンドの時間とメモリの余裕で、AI が考える時間は変わらない(「Claude Code・Codex に必要な PC スペック」)。
イメージは「音楽のストリーミング vs ダウンロード」に近い。クラウドAIは聴きたい時に毎回ネット越しに再生する形、ローカルLLMは曲を端末に落としてオフラインでいつでも再生できる形だ。モデルという数GBのファイルを一度PCに入れてしまえば、あとはネットも課金も不要で動かせる。
💡 ひとことで:ローカルLLM=「ネットに送らず、自分のPCで完結するAI」。プライバシーとコストに強い一方、最上位のクラウドAIほど賢くはない——この性格を押さえるのが第一歩。
2. なぜローカル?メリットと弱点
ローカルLLMの魅力は3つ。プライバシー・コスト・オフラインだ。入力が外部に出ないので機密データも扱いやすく、API料金もかからない。1回ごとの課金が無いので、同じ処理を何千回も回す用途ほど差が大きくなる。
ただし弱点もある。正直に押さえておこう。
- データが外に出ない(プライバシー)
- 使い放題で追加料金なし
- ネット不要で動く
- モデルや設定を自由にカスタムできる
- 最上位のクラウドAIほど賢くない
- そこそこのPCスペックが要る
- 初期セットアップに少し手間
- 最新情報は持たない(学習時点まで)
つまり「賢さは最先端に一歩譲るが、プライバシー・コスト・オフラインで圧勝」。この割り切りができる用途なら、ローカルLLMは強力な選択肢になる。
3. 必要なPCスペックと量子化
「自分のPCで動くの?」が最大の関心事だろう。鍵はメモリ(RAMやGPUのVRAM)と量子化だ。
最近のノートパソコンに入っている NPU(AI 専用の部品)は、Ollama ではまだ使われない。NPU が何に効くかは「NPUとは?パソコンに必要か」を参照。
量子化(quantization)とは、モデルの数値の精度を落とす代わりに容量を大幅に小さくする圧縮技術。ローカル向けの配布形式はGGUFが標準で、なかでも「Q4_K_M」がバランスの定番だ。どれだけ縮むかは Ollama のタグ一覧で確かめられる。Llama 3.1 8B は16bit(fp16)のままだと16GB、Q4_K_M なら4.9GBで、約3割の大きさになる。ollama run llama3.1:8b で落ちてくるのも、この Q4_K_M 版だ(llama3.1 のタグ一覧、2026年9月30日時点)。GGUF 形式のモデルは Hugging Face に207,667件ある(Hugging Face の GGUF の絞り込み、同日時点)。
では実際にどれくらいの大きさか。Ollama のモデル一覧に載っているダウンロードサイズを小さい順に並べる。
| Ollama のタグ | サイズ | 入力 | コンテキスト上限 |
|---|---|---|---|
llama3.2:3b |
2.0GB | テキスト | 128K |
gemma4:e2b |
4.6〜7.5GB | テキスト・画像・音声※ | 128K |
llama3.1:8b |
4.9GB | テキスト | 128K |
gemma4:e4b |
6.6〜9.5GB | テキスト・画像・音声※ | 128K |
gemma4:12b |
7.7〜8.0GB | テキスト・画像 | 256K |
gemma4:26b |
16〜19GB | テキスト・画像 | 256K |
muse-glimmer |
18GB | テキスト・画像 | 128K |
qwen3.8:27b |
18GB | テキスト・画像 | 256K |
gemma4:31b |
19〜20GB | テキスト・画像 | 256K |
llama3.1:70b |
43GB | テキスト | 128K |
※出典:Ollama のモデル一覧の各タグのページ(2026年9月30日時点)。サイズの幅も一覧の表示どおり。音声は gemma4 のページの表で E2B・E4B だけが対応とされている(タグ一覧の表示はテキスト・画像)。muse-glimmer の行はmuse-glimmer のタグ一覧(2026年10月5日時点)。
表の読み方のコツは2つある。
- メモリはサイズより多めに要る:表はファイルの大きさ。実行中は、これに会話の文脈(コンテキスト)を覚えておく分が上乗せされる。Ollama の既定のコンテキストは4,096トークンで、長くするほどメモリを食う(Ollama の FAQ)。
- GPU に載り切ったかは
ollama psで見る:PROCESSOR 欄が「100% GPU」なら全部が GPU、「100% CPU」ならメインメモリで動いている。「48%/52% CPU/GPU」のように割れていれば一部がはみ出している(同 FAQ)。CPU 側に回った分は遅くなりやすいので、1段小さいタグへ下げる判断材料になる。
Mac の Apple Silicon は CPU と GPU が同じメモリを使う(ユニファイドメモリ)ので、メモリの大きい Mac なら大きめのタグも GPU で動かしやすい。OS とハードの条件は、ツールの公式ページに次のように書かれている。
| Ollama | LM Studio | |
|---|---|---|
| Mac | macOS 14 Sonoma 以降、Apple M シリーズ(CPU・GPU)か x86(CPU のみ) | Apple Silicon(M1〜M4)、macOS 14.0 以降/RAM 16GB 以上を推奨(8GB でも小さいモデルなら動く場合がある) |
| Windows | Windows 10 22H2 以降(Home・Pro)/ドライバは NVIDIA が 551.61 以降、AMD が ROCm v7 か Vulkan に対応したもの | x64(AVX2 が必須)と ARM(Snapdragon X Elite)/RAM 16GB 以上・専用 VRAM 4GB 以上を推奨 |
| Linux | インストール用スクリプトのほか、手動で入れる手順もある | x64・ARM64、Ubuntu 20.04 以降(AppImage で配布) |
| ディスク | Windows は本体に4GB 以上/モデルは合わせて数十〜数百GB になりうる | — |
出典:Ollama の macOS・Windows のドキュメント、LM Studio のシステム要件(いずれも2026年9月30日時点)。
まず試すなら、表の上のほう(2〜5GB 前後)のタグで十分だ。
4. 始め方——ツール選びと最初の1回
Ollamaをもっと深く使いたい人は、Ollama完全ガイド(コマンド・API・カスタマイズ)も参照してほしい。
タイプ別に、2つの定番ツールから選べばよい。
どちらも無料で、Windows・Mac・Linuxに対応。ほかにJan、Open WebUI、llama.cpp などもある。画面で操作したい人はLM Studioを入れて小さなモデルを1つ落とすのがいちばん早い。コマンドに抵抗がなければ、次の Ollama の手順でも数分で動く。
Ollama で最初の1つを動かすまで
Ollama の公式 README とドキュメントの手順どおりに、インストールから動作確認までを追う(2026年9月30日時点)。コマンドの一覧や細かい使い方はOllama完全ガイドのコマンド編に任せ、ここでは最初の1回に要る4つに絞る。
① インストールする。macOS と Linux はターミナルで次の1行を打つ。
curl -fsSL https://ollama.com/install.sh | sh
Windows は PowerShell で次の1行。
irm https://ollama.com/install.ps1 | iex
ネットのスクリプトをそのまま実行したくない人は、公式の手動ダウンロードでもよい(Mac は Ollama.dmg、Windows は OllamaSetup.exe、Linux は手動インストールの手順)。Docker なら公式イメージ ollama/ollama がある(Ollama の README)。
② モデルを動かす。README の最初の例と同じく、Gemma 4 を動かしてみる。まだ手元に無いモデルは、先に取得してから会話が始まる。
ollama run gemma4
gemma4 の既定のタグは6.6〜9.5GB ある。メモリが心もとなければ、ollama run gemma4:e2b や ollama run llama3.2(2.0GB)のように小さいタグを指定する。
③ 動いているかを確かめる。別のターミナルで次を打つと、読み込まれているモデルと PROCESSOR 欄(GPU か CPU か)が出る。3節で書いたとおり「100% GPU」なら理想的だ。
ollama ps
④ 片づける。ollama stop gemma4 でメモリから降ろし、要らなくなったら ollama rm gemma4 で消す。モデルの置き場所は macOS が ~/.ollama/models、Linux が /usr/share/ollama/.ollama/models、Windows が C:\Users\%username%\.ollama\models で、環境変数 OLLAMA_MODELS で変えられる(Ollama の FAQ)。
⚠️ 「:cloud」が付いたモデルは手元で動かない:Ollama には gemma4:cloud のようなクラウドモデルもある。これは Ollama のクラウドで実行され、使うにはサインインが要る(Ollama のクラウドのドキュメント)。公式は、プロンプトと応答を答えるために処理し、学習には使わないと説明している。それでも「データを手元から出さない」のが目的なら、タグに :cloud が付いていないかを確かめてから使おう。
5. モデルの選び方(2026年9月時点の例)
モデルは入れ替わりが速いので、名前より先に選ぶ軸を押さえたい。①手元のメモリに収まるサイズか(3節の表)、②画像や音声の入力が要るか、③日本語・コードなど自分の用途に強いか、④最近も更新されているか。候補の名前・サイズ・更新日は Ollama のモデル一覧で確かめられる。2026年9月30日時点の代表例は次のとおり。
Llama 3.1(8B)
Ollama の一覧で累計の取得数が最も多いモデル(1.2億回)。4.9GB で中スペックのPCでも動く。ただし最終更新は1年前。メモリが少ないPCは Llama 3.2 へ。3.2 は 1B(1.3GB)と 3B(2.0GB)の2サイズだけ。
Meta Muse Glimmer(30B)
Meta のオープンウェイトのうち、手元のPC向けの小型モデル(2026年8月公開)。Muse Spark から蒸留した30Bの密なモデルで、テキストと画像を読み、テキストで答える。コンテキストは128K、ライセンスは Apache 2.0(Meta のドキュメント)。Ollama の既定のタグ muse-glimmer は Q4_K_M 版で18GB(タグ一覧、2026年10月5日時点)。Meta も自社の Q4_K_M の GGUF(約17GB)を「24GB の VRAM に収まる」と案内している(モデルの入手)。Llama 3.1 も配布は続いていて小さいPCならそれで足りるが、Meta の小型のオープンモデルはこちらだ。10月15日には 816B の大型版 Muse Spark Open も出たが、重みが4ビット版でも約537GB で、個人のPCでは動かせない。Ollama にあるのも、Ollama のクラウド上で動くタグ(muse-spark-open:cloud)だけだ(2026年10月18日に確認)。
Google Gemma 4
Ollama の README が最初の例に使うモデル。E2B・E4B・12B・26B・31B の5サイズで、どれも画像を読める。音声に対応するのは小型の E2B・E4B だけ。
Alibaba Qwen3.8
コーディングや長い手順のエージェント作業での向上をうたう。Ollama にあるのは 27B(18GB・コンテキスト256K・画像入力あり)の1サイズだけなので、メモリに余裕のあるPC向き。
DeepSeek・Mistral 等
DeepSeek-R1 は 1.5B から 671B まで刻みが細かく、考えてから答える推論型。Mistral は 7B の1サイズ。用途とメモリに合わせて選べる。
コツは「まず小さめのタグを1つ試し、ollama ps で GPU に載っているのを確かめ、物足りなければ1段大きいタグへ」と段階的に進めることだ。クラウドAIの比較と同じく、用途に合うかは実際に触って確かめよう。
6. クラウドとの使い分け
ローカルとクラウドの違い・性能差・選び方をもっと詳しく知りたい人は、ローカルLLMとクラウドLLMの違いと性能差の記事も参照してほしい。
ローカルとクラウドは「どちらか一方」ではなく、役割で使い分けるのが賢い形だ。
- ローカルが向く:機密データの処理、大量・反復のタスク、オフライン環境、コストを抑えたい定型処理。
- クラウドが向く:最高精度が要る難問、最新情報が必要な調査、重いコーディング。ChatGPT・Claude・Geminiなどの最上位モデルが活きる場面。
たとえば「下書き・分類・要約はローカルで無料に、仕上げや難所だけクラウドに」という併用が効く。ただし「無料」なのは API 料金の話で、電気代と PC の費用はかかる。使う量が少なければクラウドのほうが安く済むこともあり、どちらが安いかは量しだいで逆転する。
まとめ
ローカルLLMを3点に整理する。
- 正体:AIモデルを自分のPCで動かすこと。データは外に出ず、API料金もオフラインの制約もない。
- 始め方:初心者はLM Studio、開発者はOllama(公式のスクリプトで入れて
ollama run、ollama psで GPU に載ったかを確認)。まずは2〜5GB前後の小さなタグから。量子化(Q4_K_M)で fp16 の約3割に縮む。 - 使い分け:賢さはクラウドが上。機密・大量・オフラインはローカル、難問はクラウドの併用が最適。
まずはLM Studioを入れて、小さなモデルを1つ動かしてみよう。「自分のPCの中だけでAIが喋る」体験は、思った以上に新鮮だ。仕組みをもっと知りたい人はLLMの仕組みもあわせてどうぞ。
FAQ
Q. 普通のノートPCでも動く?
A. 小さなモデルなら動きます。Ollama の一覧では llama3.2:3b が2.0GB、llama3.1:8b が4.9GBです(2026年9月30日時点)。実行中はこれにコンテキスト分が上乗せされます。LM Studio の公式は RAM 16GB 以上を推奨しています。小さいタグから試し、ollama ps で GPU に載っているかを確かめてからサイズを上げるのがおすすめです。
Q. ローカルLLMはChatGPTより賢い?
A. 最高精度では最上位のクラウドAI(ChatGPTやClaudeの上位モデル)が上です。ローカルの強みは賢さではなく、プライバシー・コスト・オフライン。目的に合えば十分実用になります。
Q. 完全に無料で使える?
A. ツールもオープンモデルも無料で、API料金もかかりません。かかるのは電気代と、必要に応じたPC・GPUの初期費用だけです。使うほど"1回あたり"は安くなります。ただし Ollama の :cloud が付いたモデルは Ollama のクラウドで動くもので、手元で完結するローカル実行とは別物です。
Q. 量子化で品質はどれくらい落ちる?
A. 大きさは fp16 の約3割になります(Llama 3.1 8B で16GB→4.9GB)。品質の落ち方はモデルと用途で変わるため、まずは Q4_K_M(llama3.1:8b で落ちてくる版)で試し、気になるときは同じモデルの q8_0(Llama 3.1 8B で8.5GB)と答えを比べるのが確実です。